INTERVIEW
インタビューFiguarts ZERO
原型師:安藤 賢司KENJI ANDO
開発担当:秋場 皓貴KOKI AKIBA
“演出系”のプロが挑む、他にはない遊び要素。

Q.今回、「造形王」にFiguarts ZEROとして安藤さんとタッグを組んで出場されます。このチーム結成の経緯からお聞かせください。
安藤) 最初にお話をいただいたときは、「私でいいんですか?」というのが率直な反応でした。ジャンルがあまりに違うので“場違い”感が強く「私なんかが出て本当に大丈夫なんでしょうか」と思ったんです。『ONE PIECE』の造形は今回が初めて。これまで手がけたキャラクターものも怪獣や人間などが中心で、いわゆる“演出系”の立体表現が大半でした。ここまで線のはっきりしたコミック的な美少女キャラクターを本格的に制作するのは、おそらく商業では初めてです。
他の皆さんが作り上げた『ONE PIECE』フィギュアは、誰が見てもそのキャラクターにしか見えないパーフェクトな再現度があります。それを知っていたからこそ、オファーをいただいたときは正直かなり不安でした。でも、そのとき秋場さんたちから「安藤さんの“味”を出していい」と言っていただけたんです。その一言がなければ、おそらくお断りしていたかもしれません(笑)。
秋場) オファーの際には安藤さんのタッチに合うキャラクターとして、ミンク族が月の光を浴びて変身する「月の獅子(スーロン)」化したキャラクターをいくつかご提案しました。
安藤) それを見たときに「なるほど、怪物系だから僕に依頼が来たんだな」と納得しました(笑)。そのリストの中にキャロットがいて、「女性キャラもいますけど、どうですか?」と。それで、僕のこれまでのイメージを一番裏切れるのはキャロットだろうなと思いましたし、女の子キャラもやったことがないわけじゃないので挑戦してみることにしました。
ですから、僕は今回の「造形王」のジョーカー的な立ち位置として、波乱を生み出せたら面白いんじゃないかと考えています。

Q.今回の作品の具体的なコンセプトやこだわりについて教えてください。
秋場) 今回のコンセプトは、スーロン化したキャロットが月をバックに美しく佇む姿です。ただのスケールフィギュアで終わらせず、新しいチャレンジとして台座の月を本体に合わせて回転させられる可動ギミックを入れました。アングルを変えても、キャロットの後ろに月が来るようにギミック調整しています。作中でキャロットが敵船の舵を奪うシーンともリンクさせ、台座を舵輪のデザインにするなど、色々な工夫をこらしています。
安藤) 企画段階では、この舵輪のベースだけでも最低4種類は描きましたし、もっと大きな月や、それを支えるのが機械的なパーツだったりと、かなりの数のデザイン案を提出しました。通常制作の2倍くらいは描きましたね。その中で、「回転させるなら舵輪のデザインが面白いんじゃないか」というアイデアをいただき、最終的にこの形に落ち着きました。
Q.安藤さんにとって、キャロットというキャラクターをどのように捉えていますか?
安藤) スーロン化する前はすごくかわいい。でも、僕のタッチでそれを表現するのは少し辛いな、と(笑)。ですが、彼女はスーロン化してからは「かわいい」から「かっこいい」へと変化し、戦うときには怖い顔もする。その強さや勇ましさは、自分の表現にも合いそうだと感じました。もともと、とても魅力的なキャラクターですしね。
ただ、最初の造形では、かっこよさや強さに振り切りすぎてしまい、どちらかといえば怪物寄りというか、生き物的な要素が前面に出てしまったんです。そこで企画担当の秋場さんと相談してかわいさの要素も入れた修正を加えると同時に、顔の表情は造形で作り込むのではなく、タンポ印刷で再現する方法に変更しました。そのおかげで、自分でもすごくかわいくなったと思っています。
秋場) 安藤さんの素晴らしいクリーチャー造形とアニメに近い表現ができるタンポ印刷の絶妙なバランスで、かっこよくてかわいいフィギュアにしていただきました。
安藤) また、今回はキャラクターだけでなく、背景と一体化させて仕上げる「ヴィネット」という手法を採りました。物を支えるためのエフェクトをいかに美しく、世界観に合った形で見せるか。そして、人が物を見るときの目の動き、視線誘導も意識しています。今回は「造形王」のための特別仕様として、普段はコスト的に難しいベース部分の作り込みもかなりこだわらせてもらえたのでラッキーでしたね。
秋場) 安藤さんは「S.I.C」や「S.H.MonsterArts」など可動フィギュアも手がけられているので、スタチューでありながら"遊びの要素"を入れていただけたのも、他にはない強みです。通常、可動を入れるとパーツ分割などが目立っておもちゃっぽくなりがちですが、安藤さんは綺麗なヴィネット造形の中に可動軸を組み込んでくださいました。そこもぜひ注目してほしいですね。
Q.彩色についても、新しい試みをされているとか。
安藤) 煙や雷、またキャロットの髪の毛にも透明パーツを多用しているので、いわゆる「フィギュア塗り」とは少し違う彩色にも挑戦しました。透明パーツを使うことで、よりシリアスなシーンの雰囲気が出せないかと考えたんです。透明パーツの彩色は、明るく見せたい部分に色を乗せない“水彩画”のような発想が必要で、これがまた非常に手間がかかります(笑)。それでも、透明パーツに合わせた塗りを施すことで、作品全体がぐっと映える仕上がりになったと思います。

Q.今回から海外投票が加わりますが、それについてはどのように受け止めていますか?
安藤) 海外、特に香港などのフィギュアはベースが大きくて豪華なものが多いですよね。我々の作品が、そういった目の肥えた人たちにどう映るのか興味があります。
秋場) 海外は昔からクリーチャー造形の文化が根強いので、特撮系も数多く手がけられている安藤さんの造形は海外のファンに刺さるのではないかと期待しています。
Q.最後に、今回の「造形王」への参加を経て、今後の夢や挑戦してみたいことがあればお聞かせください。
安藤) キャラクターだけでなく、背景も含めた"見せ方"として新しい提案ができないか、というのは常に考えています。今回は固定フィギュアなのに「触って楽しい」というプレイバリューを少し入れ込む挑戦ができました。今後はこの試みをさらに発展させて、ただ見るだけでなく楽しめる作品を追求していきたいです。
秋場) Figuarts ZEROとして初めて、新しい遊びのギミックを取り入れる機会をいただけたのは、ブランドとしても大きな進化のきっかけになりました。安藤さんと「造形王」には感謝しかありません。これからもプラスアルファの遊び要素をどんどん加えて、ブランドをさらに進化させていきたいですね。
