INTERVIEW

インタビュー

にふぉるめーしょん創

原型師:師岡 雅史MOROOKA MASASHI
(MIC)

開発担当:林 瑛実IM YOUNGSIL

原型師:ケイラ アンKEIRAANN
(MIC)

制約の中で、こだわりぬかれた“再現性”。

Q.にふぉるめーしょん創としては2度目の「造形王」出場となります。今回は師岡さんとケイラアンさんというチームですが、このタッグが生まれた経緯からお聞かせください。

林) お二人には以前からキャンディ事業部の商品をいくつかご担当いただいており、その素晴らしい造形力から、ぜひ今回の「造形王」もお願いしたい、と前任者から引き継ぎました。私自身はお二人との仕事は初めてでしたが、この数ヶ月、度重なる修正のお願いにも真摯にご対応いただき、本当に素晴らしい作品に仕上げていただいたと感じています。

師岡) 実は、前職は船舶関係の仕事だったんです。貨物船をフルスクラッチで一から作るほど船が好きで。原型師に転職してまだ数年ですが、転職時は「船を作る仕事は100%ないだろう」と思っていたんですよね。そしたら、たまたま今回ゴーイング・メリー号のお仕事が来て、「早速、船を作る仕事が来た!」と(笑)。

林) え! その話は今、初めて知りました(笑)。船の知識をお持ちだったからこそ、あれだけ素晴らしいクオリティの造形になったんだなと、今すごく辻褄が合った気持ちです。

ケイラアン) 私も原型師としてのキャリアは長くありません。大学在学中、自然の中で熊の木彫りなどを制作している方とお話しする機会があり、それが原型師を志すきっかけになりました。「ものづくりがしたい」という思いが強く、アニメや漫画も好きだったので、日本に戻ってからフィギュアの専門学校に進学。その後、現在所属する制作会社に入社したという流れです。

Q.お二人とも、非常にユニークなキャリアをお持ちですね。そんな中で今回、原型師の夢の舞台でもある「造形王」への参加が決まった時のお気持ちはいかがでしたか?

ケイラアン) 最初は、ここまで長いスパンをかけて制作する企画だとは思っていませんでしたが、この小さいサイズの中にしっかりと魅力を詰め込めるように頑張りたいな、と。他の参加者の方々はベテランの方が多く、萎縮してしまいそうな時もありましたが、「己に負けないように」とそのプレッシャーをプラスに活かせるように取り組みました。

師岡) 「賞レース」は緊張するな、とは感じましたが、食玩だけれどもかなり細かく作り込んでいい、というお仕事だったので楽しそうとも思いました。もし、すごくコストを抑えた形でメリー号を作ってくれ、という仕事だったら僕の船の知識は活かせなかったでしょうし、「ここまでやっていいんだったらやろう」と気合も入りました。

▼作品について

Q.今回、数ある名場面の中から「ゴーイング・メリー号とのお別れのシーン」を選ばれた理由と、その造形におけるこだわりについて教えてください。

林) このシーンは、ファンの皆様にとって印象深い名場面の一つです。前回の「造形王」では四皇の各キャラクター単体でしたが、今回はこのシーンを立体化することでより多くの方に感動や共感を与えたいという想いがありました。にふぉるめーしょんのシールではルフィの背中しか描かれていませんが、これを360度見られる形にすることでシールでは見えなかった世界を表現しよう、と。

師岡) 最初は、このサイズ感で大きな構造物が崩れていく様を表現するのは難しいと感じました。シールに描かれているのはメリー号の顔と船体先端だけですが、今回はマストも作り、それが折れて正面に倒れ込んでくる構図にしています。大きなものを手前へ倒すことで、崩れていく感じを出せたら、という狙いです。

また、船造りの経験を活かして、船体が折れた甲板の断面も後ろから見るとちゃんと見えるように作っています。ほかにも、メリー号の顔の下にある主砲の部分は、覗き込むと部屋のような空洞に繋がっていますし、錨もアンカークラウンとストックがねじれた正しい形を再現するため、2パーツに分割しています。こうした部分は、普通の食玩だと金型の都合でなかなか実現しにくいところですね。

ケイラアン) 『ONE PIECE』の原作を読み返したのはもちろんなのですが、今回は元のシールを手がけたイラストレーターさんが特別に描いてくださった正面イラストも参考にしています。デフォルメの中にも原作のルフィの感情が乗るよう、特に涙の形状、膨らみがうまく出るように細心の注意を払いました。また表情だけではなく、船を見上げる姿勢や手を握りしめる仕草といった細やかなポージングを通して、キャラクターの心情が自然に伝わるよう意識しています。デフォルメ表現だからこそ、細部のディテールで感情を豊かに出せると思います。

師岡) メリー号の表情に関しては、人間のような表情は当然付けられないですが、無表情なことでかえって哀愁が表現できるのではないかと考えました。メリー号が炎に包まれていく様子を表現するにあたっては、目の塗分け線をギザギザさせて、傷のようにも見えるし、炎の熱気で陽炎が立っているようにも見えるようにしました。さらに、ルフィ達がよくメリー号の頭の上で寝そべっているイメージがあったので、メリー号の首の後ろから頭頂部にかけて傷を多めに入れることで、旅の記憶が蘇るような工夫をしました。

林) にふぉるめーしょん創は、52mm角のスクエアシール台座からキャラクターが飛び出す、というコンセプトです。シールが燃えているようなエフェクト塗装や、ウエハースシールのキラキラ感を再現するためのメッキ塗装など、再現性にも徹底的にこだわっています。原作を踏まえて、波の表現や尾田先生が描く炎のエフェクトもかなり調整を重ねたので、当時の思い出がよみがえる仕上がりになったと思います。

Q.今回から海外投票が加わりますが、それについてはどのように受け止めていますか?

師岡) 海外メーカーのフィギュアは、リアル寄りのアレンジが多い印象です。それに対して、僕たちは日本らしく「原作者が描いた絵、その作風をいかに忠実に再現するか」で勝負しています。そうした日本のフィギュアの良さを伝え、海外の方にも「作風の忠実な再現も素敵だね」と感じてもらえたら嬉しいです。

ケイラアン) 『ONE PIECE』という作品自体が世界中で愛されていると思うので、国籍を問わず、良い意味で心に届くものになっていれば嬉しいです。

林) この作品をきっかけに、『にふぉるめーしょんシールウエハース』というシリーズ自体を海外の方にも知っていただくきっかけになれたら良いですね。

Q.最後に、今回の「造形王」への参加を経て、今後の夢や挑戦してみたいことがあればお聞かせください。

師岡) 今回のような食玩のアイテムは、日本の住宅事情にも合った飾りやすいサイズです。造形師としては、コストをかけてリアルに細部まで作り込むほうが楽な面もありますが、そうした制約の中でいかに原作の印象に近く、かつ頑丈で遊びやすいものを作るかが腕の見せどころです。コストを抑えつつ、自分の造形力をしっかり活かせる制作を目指していきたいですね。

ケイラアン) 今回はキャラクター単体ではなく、シチュエーションを表現するヴィネット的な作品でした。そこで、一つの“場面”を意識した作り方について多くを学べました。今後は、たとえキャラクター単体でも、そのキャラクターが置かれている状況をイメージしながら作るなど、見せ方の幅を広げていきたいと思います。今回得た新しい視野を、これからの仕事に活かしていきたいです。

林) 私はまず、この「造形王」の商品をお客様の元へしっかり届けたいという気持ちが強いです。もちろん今後もキャンディ事業部の『ONE PIECE』商品で新たなチャレンジを続け、もっと多くのお客様にファンになっていただける企画開発を目指していきたいと思います。

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